2026/01/20
行政処分事例で学ぶ「景表法・ステマ規制」|違反を防ぐための実務ガイド
近年、デジタルマーケティングの進化とともに、消費者の信頼を損なう不当表示への監視が強まっている。
2023年10月の「ステマ規制」の施行に続き、2024年10月には景品表示法のさらなる改正が行われるなど、企業のコンプライアンス体制は、大きな転換期を迎えている。
本記事では、景品表示法の基礎知識から具体的な違反事例、効果的な対処法まで、広告担当者が押さえておきたい重要事項を解説していきたい。
景品表示法とは?
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)とは、消費者がより良い商品・サービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守るための法律のこと。
大きく分けて以下の2つの規制がある。
(1) 不当な表示の禁止
商品やサービスの品質・内容、あるいは価格について、実際よりも「著しく優れている」「著しく安い」と消費者に誤解させる表示を禁止するもの。
(2) 過剰な景品提供の禁止
「豪華なオマケ(景品)」で消費者を釣ることを制限するもの。
景品の価値が高すぎると、消費者が「商品そのものの良さ」ではなく「オマケの魅力」に引きずられ、質の悪い商品を買わされてしまうリスクがある。
そのため、くじ引き(懸賞)や購入者全員へのプレゼントには、最高額や総額に一定のルール(上限)が設けられている。
Webサイトの運営では、特に(1)の不当表示に注意が必要となる。
キャッチコピー、価格比較、インフルエンサーへの依頼、さらにはユーザーレビューの掲載方法など、たとえ事業者側に騙すつもりがなかったとしても、結果として消費者に誤解を与える表現になっていれば、措置命令や課徴金といった行政処分の対象となることも。
企業としての信頼を失わないためにも、正しい知識に基づいた情報発信が求められる。
景品表示法の違反事例
実際、どのような表現が「アウト」になるのか、具体的なケースを見ていきたい。
1:優良誤認表示
品質や規格が、実際よりも、あるいは他社よりも著しく優れていると誤認させる表示のこと。
NG例
「食事制限なし! 施術を受けるだけで、すぐに10kg痩せる」と表示。
しかし、その効果を裏付ける客観的で合理的な根拠がない場合(誇大広告)。
NG例
実際には外国産の原材料を使用しているのに、「国産100%」と広告する行為(原材料・産地の誤認表示)。
行政処分事例:原材料の不当な表示(キリンビバレッジ株式会社)
2020年6月9日から2022年4月13日の間、「トロピカーナ100% まるごと果実感 メロンテイスト」のパッケージに、原材料の大部分がメロン果汁であると消費者に誤解させる表示を掲載。
しかし実際には、原材料の大部分がぶどう・りんご・バナナの果汁で占められており、メロン果汁はわずか2%程度しか使用されていなかった。
この表示は商品の内容を著しく優良であると誤認させるものとして、措置命令の対象となった。
参考:キリンビバレッジ株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について(消費者庁)
2:有利誤認表示
価格などの取引条件が、実際よりも、あるいは他社よりも著しくお得だと誤認させる表示のこと。
NG例
平常時に販売実績のない高い価格を「通常価格」と称して、「今だけ50%OFF!」と表示する行為(不当な二重価格表示)。
NG例
比較の前提条件(他社の割引適用後価格など)を意図的に隠し、あたかも「自社が地域最安値」であるかのように表示する場合(不当な比較表示)。
行政処分事例:「期間限定」キャンペーンの不当な表示(フィリップ・モリス・ジャパン合同会社)
2015年9月~2018年5月の間、コンビニエンスストアの店頭に設置された加熱式たばこ「アイコス」の広告にて、期間限定とした上で「今なら会員登録すれば◯◯円OFF」などと表示。
しかし実際には、設定した期間が過ぎた後も同様のキャンペーンを継続していた。
消費者庁は、フィリップ・モリス・ジャパンに対し、5億5,274万円もの課徴金納付を命じている。
参考:フィリップ・モリス・ジャパン合同会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について (消費者庁)
3:おとり広告
購入できない、または購入させる意思がない商品で客を引き寄せる表示のこと。
NG例
供給量が極めて限定されているにもかかわらず、その旨を明示せず「大特価セール」として大々的に宣伝し、来店を促す行為。
行政処分事例:品切れ状態でのキャンペーン広告表示(株式会社あきんどスシロー)
2021年9月から11月のキャンペーンにおいて、「新物!濃厚うに包み」や「冬の味覚!豪華かにづくし」といった目玉商品をテレビCMなどで大々的に告知。
しかし実際には、全国の9割近い店舗で商品が提供できない状況だったにもかかわらず、宣伝を継続。
これが「おとり広告」と認定され、措置命令を受けた。
参考:株式会社あきんどスシローに対する景品表示法に基づく措置命令について (消費者庁)
【重要】ステルスマーケティング(ステマ)規制の行政処分事例
2023年10月、広告であることを隠して一般消費者の口コミを装う「ステルスマーケティング(ステマ)規制」が新たに導入された。
翌2024年には、同規制に基づく日本初の行政処分も下されるなど、現在ステマは景品表示法が禁じる「不当表示」の一つとして厳しく制限されている。
以下に、実際に措置命令や課徴金納付命令の対象となった具体的な事例を挙げてみたい。
事例1:医療法人によるGoogleマップの口コミ操作(2024年6月)
【事案の概要:医療業界初のステマ規制違反事例(口コミ操作)】
東京都の医療法人が、インフルエンサー等に依頼してGoogleマップの口コミに高評価(★5等)を投稿させていた事案。
報酬としてインフルエンザワクチンの接種費用を割り引いており、事業者が投稿内容を実質的にコントロールしていたと判断された。
2023年の規制施行後、初のステマ違反による行政処分として注目されただけでなく、一般法である景品表示法が医療機関に対しても厳格に適用されることが示された事例でもある。
医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について (消費者庁)
また、2025年3月にも、別の医療法人(歯科医院)がGoogleマップの口コミに高評価をつける条件で、治療費5,000円の値引きなどを行っていたとして、措置命令が出されている。
事例2:chocoZAPによるインフルエンサー投稿の広告隠匿(2024年8月)
【事案の概要:有利誤認とステマ規制の複合違反】
広告で「全サービス24時間使い放題」と謳いながら、実際にはセルフ脱毛やエステ等の特定サービスの利用時間が、1日5〜16時間に制限されていた事案。
これは取引条件を実際よりも良く見せる「優良誤認」にあたると判断された。
また、対価を支払って依頼したインフルエンサーによるInstagram投稿を、「広告」や「PR」と明示せずに第三者の口コミや体験談を装って自社サイトに掲載。
こちらは「ステマ規制違反」と認定された。
RIZAP株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について(消費者庁)
ステマ・景表法違反を回避するための実務ポイント
2024年以降、措置命令や確約計画の認定を受ける企業が増加しており、当局の監視の目は一段と厳しくなっている。
違反を未然に防ぎ、企業の信頼を守るために徹底すべき実務上のポイントを整理してみよう。
1. 「広告」であることの明示を徹底する
SNSやブログ、口コミサイト等で第三者に発信を依頼する際は、消費者が一目で「これは宣伝である」と認識できることが重要だ。
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認識しやすい位置への記載
「PR」「広告」「宣伝」「プロモーション」といった文言は、投稿の冒頭や画像内の目立つ位置など、消費者がスクロールせずとも視認できる箇所に記載する。
大量のハッシュタグの中に埋もれさせたり、周囲の文字と同じ色・極端に小さい文字で記載したりする行為は、実質的に「判別困難」とみなされ、ステマ規制違反となるリスクが高い。 -
広告主による検品体制の確立
広告代理店やインフルエンサーに依頼する場合でも、最終的な法的責任は広告主である事業者が負うことになる。
投稿が公開される前に、適切な広告表記がなされているか、虚偽の体験談が含まれていないかをチェックする「検品フロー」を社内、あるいは委託先との契約内で確立しておくとよいだろう。
2. 「不実証広告」を避けるための合理的な根拠を用意する
「No.1」「最高」「国内初」といった、自社を著しく優位に見せる比較表現や、商品の効果効能を謳う強い表現を使用する場合は、その裏付けとなる客観的な証拠が不可欠だ。
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客観的なに基づく表示の徹底
根拠となるデータは、専門機関による調査結果や統計データなど、客観的に実証されたものでなければならない。
調査対象者が適切に選定されていないアンケートや、特定の条件を恣意的に抽出した比較などは、合理的根拠として認められない可能性があるので注意が必要だ。 -
注釈(打消し表示)の明確化
ランキングの調査期間や対象などを注釈として記載する場合、キャッチコピーと併せて消費者が容易に認識できるサイズで記載する。
消費者が気づかないほど小さな文字での注釈は、景表法上の「優良誤認」と判断される大きな要因となる。
3. 供給状況や提供条件を正確に記載する(おとり広告の防止)
供給量が限定的な商品や、利用に制限があるサービスを宣伝する際は、消費者が「行けば必ず買える(利用できる)」と誤解しないよう、正確な情報を提示しなければならない。
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在庫状況と広告表示の連携
「限定10個」「期間限定」と表示して集客する場合、在庫が切れた時点で速やかに広告を取り下げるか、完売した旨を明示する運用が必要だ。
供給が追いついていないにもかかわらず、客寄せのために目玉商品として宣伝し続ける行為は「おとり広告」に該当するおそれがある。 -
利用制限の明示
「24時間使い放題」や「月額固定」といった訴求を行う際、一部の店舗や特定のサービス内容に制限がある場合は、その旨を適切な文字サイズで明記する。
消費者が契約後に「思っていた商品(サービス)と違う」と感じるような乖離は、優良もしくは有利誤認として処分の対象となるだけでなく、ブランドの毀損に直結するおそれも。
まとめ
2026年現在、景品表示法やステマ規制への対応は、企業のブランド価値を左右する極めて重要なリスク管理項目となっている。
2024年の改正法により、悪質な表示に対しては、措置命令を介さず即座に懲役や罰金といった刑事罰を科す「直罰」規定が導入された。
これにより、違反に対する法的リスクは格段に高まっていると言えるだろう。
一度行政処分を受ければ、インターネット上にその事実が残り続け、信頼回復には多大な労力が必要となる。
「知らなかった」や「業界の慣習だった」では済まされないからこそ、日頃からの丁寧なチェックが不可欠だ。
広告表現の華やかさを追求する前に、それが事実に即しているか、消費者を誤認させないかを常に確認する姿勢が求められている。