2026/02/20
「明らか食品」から「機能性表示食品」へ。売上4倍の事例に学ぶ新戦略
近年、スーパーの食品売り場で、「血圧が高めの方に」「内臓脂肪を減らすのを助ける」といった、健康機能に言及する表示が増えてきているのをご存じだろうか。
これらは主に「機能性表示食品」と呼ばれ、国の制度に基づき、科学的根拠を届け出ることで一定の効果(機能性)を謳うことができる食品だ。
一方で、機能性表示食品制度が登場する以前から、野菜や果物、一般的な加工食品などは「明らか食品」として定義され、医薬品とは明確に区別されてきた。
この「明らか食品」に該当してさえいれば、薬機法の制限を受けることなく一定の健康効果を謳うことができるとされてきたが、現在、その広告運用のあり方は大きな転換期を迎えている。
なぜ今、多くの食品が「明らか食品」という枠組みに留まらず、あえて「機能性表示食品」としての届出を行うのか。
今回は、「明らか食品」の基本定義を再確認した上で、機能性表示食品制度が登場した背景と、現代の食品広告に求められるコンプライアンスについて解説したい。
「明らか食品」とは
「明らか食品」とは、薬機法の文脈で用いられる用語であり、「その形状や目的から見て、誰がどう見ても医薬品ではなく食品であることが明らかなもの」を指す。
具体的には、野菜、果物、魚介類などの生鮮食品や、納豆、パン、調味料などの加工食品等がこれに該当する。
この概念が重要になるのは、薬機法が「医薬品と誤認されるような効能効果の表示・広告」を禁じているためだ。
錠剤やカプセルといった形状の、いわゆる「健康食品」は、その外観から医薬品と誤認されやすいため、効能効果を標ぼうする際の規制が非常に厳しくなっている。
それに対し「明らか食品」は、その外観から医薬品と誤認される可能性が極めて低い。
それゆえ、薬機法の「未承認医薬品」としての取り締まり対象からは、実質的に除外されてきたという法的背景がある。
なお、厚生労働省の通知では、「明らかに食品と認識される物」について、以下のように定義・解説されている。
4 「明らかに食品と認識される物」の解釈
(1) 通常の食生活において、その物の食品としての本質を経験的に十分認識していて、その外観、形状等より容易に食品であることがわかるものは、その物の食品としての本質に誤認を与えることはないため、通常人がその物を医薬品と誤認するおそれはない。したがって、医薬品の目的を有するものであるという認識を与えるおそれのないこのような物は、医薬品に該当しないことは明らかであり、その成分本質(原材料)、形状、効能効果、用法用量について個々に検討し、後述する「判定方法」に従って判定するまでもない。通知本文中のただし書はこの旨を明記したものである。
(2) その物がここでいう「明らかに食品と認識される物」に該当するか否かは、食生活の実態を十分勘案し、外観、形状及び成分本質(原材料)からみて社会通念上容易に食品と認識されるか否かにより判断するものである。通常人が社会通念上容易に通常の食生活における食品と認識するものとは、例えば次のような物が考えられる。
- 野菜、果物、卵、食肉、海藻、魚介等の生鮮食料品及びその乾燥品
(ただし、乾燥品のうち医薬品としても使用される物を除く。)- 加工食品
(例)豆腐、納豆、味噌、ヨーグルト、牛乳、チーズ、バター、パン、うどん、そば、緑茶、紅茶、ジャスミン茶、インスタントコーヒー、ハム、かまぼこ、コンニャク、清酒、ビール、まんじゅう、ケーキ 等- 1、2の調理品(惣菜、漬け物、缶詰、冷凍食品等)
- 調味料
(例) 醤油、ソース 等(3) なお、「明らかに食品と認識される物」について行われる標ぼうにあっては、虚偽誇大な表現については不当景品類及び不当表示防止法第4条第1に、また、場合によっては栄養改善法第12条等他法令に抵触するおそれがあるので、栄養・食品担当部局等関係部局に照会するよう指導すること。
なお、以下のようなものは、「明らか食品」に含まないとされている。
A.有効成分が添加されている場合
例:コラーゲンが含まれたゼリー
B.一般性がない場合
例:粉末にしたスッポン
C.主目的が食にない場合
例:便秘を改善するためのスープ
「明らか食品」と薬機法・景表法の関係
前述の通り、「明らか食品」は医薬品と誤認されるおそれが少ないため、薬機法の規制の対象外となっている。
しかし、これは無制限に効能効果を表現してよいという意味ではない。
特に「病気を治す」「特定の疾患を予防する」といった医薬品的な目的を暗示する表現は、たとえ「明らか食品」であっても安全とは言いきれないのが実情だ。
たとえば、「トマト100%ジュースでニキビが治る!」あるいは「緑茶を飲んでインフルエンザを予防しよう!」といった表現。
これらは、その効果を裏付ける客観的かつ十分な科学的根拠が伴わなければ、誇大広告として景品表示法違反に問われるリスクを孕んでいる。
「明らか食品」を含む広告表現への監視の目が年々厳しくなる中、リスクを抑えつつ合法的にメリットを謳える「機能性表示食品」制度の活用は、現代の食品マーケティングにおいて重要な戦略のひとつになっていると言えるだろう。
潮目を変えた「機能性表示食品制度」の登場
2015年にスタートした「機能性表示食品制度」。
この制度は、国の厳格な審査が必要な「特定保健用食品(トクホ)」よりも簡易な手続きで、科学的根拠に基づいた機能性を表示できる道を開いた。
制度導入の背景には、曖昧な表現が多かった健康食品市場において、消費者がより正確な情報に基づいて商品を選べるようにする狙いがあった。
事業者は、自らの責任で安全性と機能性の科学的根拠を消費者庁に届け出ることで、これまで薬機法違反のリスクがあった具体的な効果を、合法的に表示できるようになったのだ。
機能性表示食品は、その形状や性質から、大きく以下の3つのカテゴリーに分類されている。
1. サプリメント形状の加工食品
錠剤、カプセル、粉末、液体といった、いわゆる「健康食品」の形をしたもの。
原材料には、天然成分から特定の物質を抽出・精製したものや、化学的に合成された成分が使われる。
2. その他の加工食品
清涼飲料水、レトルト食品、味噌汁、干物など、私たちが普段の食事で口にする一般的な加工食品がこれに該当する。
もともと含まれる成分の機能性を表示したり、機能性成分を強化したりしたもので、「内臓脂肪を減らすヨーグルト」「記憶をサポートするフィッシュソーセージ」といった商品が数多く登場している。
3. 生鮮食品
野菜、果物、魚介類など、加工されていない食品そのものが持つ機能性を表示するもの。
2023年8月時点で211品目が届け出られており、身近な食品が新たな価値を持って食卓に並んでいる。
たとえば、トマトやバナナにはGABAという成分が含まれるが、機能性表示食品として届け出ることで、「GABAには、高めの血圧を低下させる機能があることが報告されています」「仕事や勉強による一時的な精神的ストレスを緩和する機能があることが報告されています」といった表示が可能になる。
「明らか食品」を機能性表示食品として届け出るメリット
ここでは、「明らか食品」が機能性表示の届出を行うことで得られる具体的なメリットをいくつか挙げてみよう。
コンプライアンスのリスク回避
かつて許容されていた表現も、時代の変化と共に薬機法や景品表示法で厳しく指摘されるリスクが高まってきた。
機能性表示食品として届け出ることは、こうした法的なグレーゾーンを回避し、堂々と製品のメリットを訴求できる最も安全な方法となったと言えるだろう。
マーケティング上の絶大な効果
「体に良い」という漠然としたイメージ訴求よりも、「花粉やハウスダスト、ホコリなどによる目の不快感を軽減する」「骨の健康維持に役立つ」といった具体的で科学的根拠のあるメッセージは、消費者の購買意欲を強く刺激できる。
たとえば、乳業大手として名高い雪印メグミルク。
同社はヨーグルトの中身を変えず、「内臓脂肪を減らす」と表示した機能性表示食品へと刷新した。
その結果、わずか3ヶ月で販売額がリニューアル前の4倍に急増したという。
消費者の変化
消費者の健康意識は年々高まっており、食品に対して「何となく良さそう」ではなく、「何に、どう良いのか」という明確な根拠を求める風潮になってきている。
このようなニーズに応える上で、機能性表示は極めて有効なコミュニケーションツールと言えるだろう。
まとめ:「自由」から「ルールに基づく信頼」の時代へ
「明らか食品」が健康効果を謳う方法は、かつての曖昧さが許容された「自由」な時代から、科学的根拠と届出という「ルール」に基づいて明確な価値を伝える時代へと移行しつつある。
これは、事業者にとっては届出の手間や科学的根拠を用意する責任が伴う一方で、消費者にとってはより信頼性の高い情報に基づいて商品を選べるようになったことを意味している。
今後、食品メーカーが市場で広く支持され続けるためには、このルールを正しく理解し、消費者の信頼に応える誠実な情報提供を継続することが不可欠と言えるだろう。
参考:農林水産省 | 機能性表示食品(野菜・果実)の消費者庁への届出状況(令和8年2月5日現在)
産経新聞 |「機能性表示食品」開始から1年 届け出300品超、好調商品も